映画感想:『淵に立つ』 家族ってなんだろ?
とある出来事がきっかけで家族が崩壊する。それは珍しい事でもないし、いつ自分の身に起こってもおかしくない。その時、「家族」でいられるか?
監督:深田晃司
キャスト:古館寛治、浅野忠信、筒井真理子、太賀、三浦貴大、他
<テキトーにあらすじ>
小さい町工場を営む鈴岡利雄と妻の章江と娘の蛍。彼らは平凡な毎日を過ごしていた。そんなある日、利雄の元に一人の男がやってきた。彼の名前は八坂章太郎。礼儀正しく、真面目な八坂だったが何やら秘密があるらしい。そして、彼は鈴岡家に残酷すぎる負の遺産を残して去って行く。その後、鈴岡家の様子は一変し、、、。
<ザックリ感想>
一家に突然やって来た男が大事なものを傷つけ、その家族は崩壊寸前に陥るという話。「家族」という集団に無意識に存在している我々に、その危うさを問いかけている。そして、利雄から告白される過去にもぞっとする。
全体的に淡々と、凄く身近な日常を映し出す。その中で、事件が突然起きるのが凄く怖かった。本当に怖いのは幽霊では無く人間なのだ、という事を思い知るでしょう。
変に知名度の高い役者ややイケメン俳優を使っていないので、余計にリアル。普通の人が普通に生活しているシーンに、じんわりと来る。その辺にも好感が持てた。80点
去年秋の劇場鑑賞時の記憶を拾いながら振り返っている。去年はホントに邦画が傑作揃いで、あまり目立つことは無かった本作。『シンゴジラ』や『君の名は。』などに比べてば、キャストの知名度、宣伝の仕方、そして製作費、全てにおいて劣っているのは言うまでも無い。しかし、大人向けの本当に良い映画というのは、こういう映画を指すのでしょう。
オルガンの不気味な音から始まる冒頭で、これから起こる事件の残酷さを想起させる。鈴岡家は、町工場を営む普通の家庭。利雄は寡黙な経営者で、妻と娘がキリスト教信者である。外見的にも、暮らしぶりもごく普通。
ある日、鈴岡家に八坂という男が来て、一緒に住む事になる。白いシャツを着た、少し律儀な男の八坂章太郎は、一家にも普通に馴染んでいるように思えた。
ところが、利雄と八坂の間には、何か因縁があるようで。彼らが一緒に居る時も、ギスギスした雰囲気が垣間見える。シリアスな雰囲気で、この後の悲劇を予見させるような感じだ。
そして、4人で川に出かけた時に、ある事実が発覚する。それは、八坂と利雄の二人が過去に殺人を犯していたという事。八坂はその罪を一人で被っていたのだ。
自分と同じように収監されるはずだった人間に、恨みを持ったような様子の八坂。弱みを握られて、何も出来ない利雄。この微妙な二人の関係が、奇妙な空気を作りだしていた。この辺のつくり方も上手いねぇ。
そして、八坂は鈴岡家の大事なものを奪い、突然姿を消す。おそらく、利雄への復讐だろう。その後、鈴岡家は崩壊へ向かう。
事件後、妻の章江は大事なものを奪われた苦痛でヒステリックを起こしてしまう。彼女が壊れていく。この辺が凄く痛々しい。
章江は、この後旦那が殺人犯である事を告げられる。こうなると、もはや家族という集団を維持するのは不可能。彼らは崩壊してしまう。
家族は絶対的な存在では無く、簡単に崩れていくものなんだね。皆は当たり前のように過ごしている。しかし、そんな君の家にも突然八坂のような人間が現れるかもしれないぞ。
自分の家族には壮絶な秘密があるかもしれない。突然、誰かがやって来て、大事なものを奪っていくかもしれない。その時、ホントに家族で居られるのか?みんなも少しは考えてみて。