なおっちのお一人様フェスティバル

これからはお一人様の時代だ。映画、お酒、サッカー、旅、本が好きななおっちが、お一人様に嬉しい情報を発信していくよ

青春小説⑥

 その頃、僕には一人だけ言葉を交わす人が表れた。このクラスになってもうすぐ一年。一度も話したことも無い男だった。男の名前は中村。なぜ話すようになったのかは分からない。彼はかなり変わったところがある男だった。クラスの人達と仲良くしている様子はあまり見受けられず、たまに誰かと話すくらいだった。同じく独り者の僕に親近感を抱いたのかもしれない。しかし、彼は僕と違って、嫌われているわけでは無かった。

 最初に話しかけて来たのは中村だった。誰とも話さない僕と、体育の時間で二人組になった。いつもの準備体操の時間だ。偶然、休みの人が出たので彼と二人ですることになった。何故か、彼といても嫌な気分はしなかった。僕は先入観と言うか偏見が凄く強い人間で、その人の外見や行動で人を区別してしまう癖がある。彼は特に害を及ぼすような感じではなく、話してもそのような事はなさそうだった。

「柔道怠いよね」と彼は話しかけて来た。とても強そうな感じの男ではなかった。しかし、なかなか頭の良さそうな人間だった。

「うん、冬にやる事ではないよね」と僕は素っ気なく返した。人との会話は久しぶりだ。返す言葉にもいちいち気を使う。

 準備体操の後、普通に投げ技の練習に入った。中村はあまり中村の身長は百六十五程度で。細い体をしていた。白くてきれいな顔だった。彼に柔道は似合わない。

 菅野は中村を必要以上に強く投げ飛ばした。投げた後、試合が終わっているのに寝技に突入。彼は他の人に勝てないイライラを中村にぶつけているみたいだった。相変わらず醜い。

 高田が「やめ」と言うのが遅い気がした。もっと早く言えよ、という言葉が出かかった。これで中村が怪我でもしたらどうするのだろうか?高田は、おそらく知らないふりをするのだろう。

 授業が終わると、最初に僕は中村の所に行った。柔道着をたたみながら、彼は「ふぅ、痛かった」とボソッとつぶやいた。

「やり返してやれよ」と言おうとしたが、彼は僕みたいに意地の悪い人間ではなさそうだ。僕の醜悪な考えを彼に押し付けるのは嫌だし、彼はその方が良かった。それにしても、色が白くて、言葉を交わすとさっぱりした話し方をする人だと思った。

「君は、何で誰とも言葉を交わさないの?」と彼が聞いてきた。

「興味が無いんだ。学校にも、クラスの人間にも」と僕は答えた。

「そうなんだ。でも、僕と話すなんて変わってるね」

「そうかな?」短く僕は答えた。彼と友人になりたい人は少ないのだろうか?僕は、彼にはあまり不快な気持ちは抱かなかった。

 それから、彼とは少しずつ言葉を交わすようになった。僕にとって、彼は唯一の社会と関わるツールだった。

 

 その冬のテストはなかなかやる気にならず、学年での順位は五十位まで落ちてしまった。テスト期間が終わると、僕は生徒指導の教師から呼び出された。

「お前、部活に入ってないんだってな」予想外の一言だった。このままどこにも属さなくても良いと思っていたからだ。

「なぜ辞めたのだ?」

「やる気が無いからです」

ただそれだけの事だった。特にそのスポーツに対して思い入れも無くなったし、仲の良い人がいないどころか誰とも話さなくなっていたからだ。

「どこかの部に所属しなさい」という言葉に、とてもうんざりした。今でも「学級」という意味の分からない集団に属しているのに、これ以上どこに属せばいいんだ。この「集団」文化はどこまで根付いているのか。死ぬまでこんなのと関わると思うと今ここで死んでしまおうかな、とも思った。しかし、考えてみた。死んでも、あの女の子みたいにあっさり忘れられ、場合によっては笑われて終わりだ、それなら、精一杯嫌いな物に迷惑をかけてやりたい。今死ぬわけにはいかない。

 

 結局、僕はさぼりたい奴らが集まる事で有名な卓球部に所属した。一回、活動に顔を出してみたが、誰も真剣にやっていなかった。「部活に来い」と言ってくるウザい奴もいなくて良かった。

 その後は具合が悪いから早退したり、学校を休んだりしながら、適当にやり過ごした。部活を辞めたせいか、体重が五キロ増していた。

 

続く