なおっちのお一人様フェスティバル

これからはお一人様の時代だ。映画、お酒、サッカー、旅、本が好きななおっちが、お一人様に嬉しい情報を発信していくよ

青春小説⑦

 終業式の日、午前中で学校が終わるから学校に行ってみた。相変わらず、何か楽しい事が待っているわけでは無い。終わったら、速攻で帰ってゲームをするつもりだった。

 荷物をかばんにまとめていると、掃除を手伝え、という教師の声が聞こえて来たので、僕は足早に玄関に向かった。教室から、早く去りたかった。

 中村が僕の方に歩いてきた。「田中」と呼ばれたので、僕は彼を振り返った。

「え、どうかししたの?」僕は彼に尋ねてみた。

「これから、暇なの?」

「え、うん。特にすることは無いよ。」

「それなら、僕の家に来ない?」突然の事で僕も戸惑ったが、彼とは柔道の体育の時間で一緒になっていから、少しだけ話すようになっていた。自分の考えを持った、少し変わったところがあるものの悪い気は全くしていなかった。僕は喜んで、彼の家に行くことにした。

「良いのかい?じゃあ、行くよ」と僕は答えた。

彼の家は学校から近くにあった。歩いて十分、というところだ。ガレージにはロードスターが停まっていた。広さから言って、この車庫には後二台くらいの車が入るだろう。一体、どんな車を持っているのか気になった。

 家はとても立派だった。外から見ただけでそれが分かった。螺旋階段にオープンテラス、庭には綺麗に生えそろった芝生。シャンデリアもあった。この家は凄くお金持ちだ、と誰でも分かるような家だった。

 「ここ、僕の部屋だから」と言って通されたのはこれまた広い部屋だった。僕の部屋は六畳だが、それの倍くらいありそうな感じだった。中にはテレビとゲーム機、本とBlu-rayが棚に並んでいた。

「気になったのがあったら見ていいよ」

普通、自分のものを見られるのに抵抗を示す人はい多い。しかし、彼は恥ずかしがることも無く、かといって威張ることも無く、自然に振る舞った。おそらく、それは自分に自信があるから出来ることなのだろう。埃も無くて、とてもきれいな部屋だった。

「中村は、趣味とかないの?」僕は緊張気味に尋ねた。

「え、どうかな。映画観たり、ギター弾いたりするくらいかな。あ、本もたまに読むよ」

いかにもな趣味だった。品が良いというか、教養に溢れている、という感じだ。僕の知らない映画をいっぱい知っているようだ。その後、僕は棚にある一つの映画を取りだして、再生した。彼も一緒に観た。ボクシングの映画だった。一応、シリーズのスピンオフ映画だったが、本来のシリーズを観たことが無い僕でも楽しく観られた。最後のリングでのシーンが凄く胸を熱くする映画だった。彼が出してくれたお菓子を食べながら、二時間の映画をあっという間に見終わってしまった。

 

 観終ると、玄関のベルが鳴った。階段を下り、中村が「入って」と言った。誰か、読んだのだろうか、と僕は彼の部屋の中で考えていた。僕の嫌いなタイプの人だったら、すぐ帰るつもりだった。一人の人間が玄関のドアを開ける音がした。その人が部屋に向かって歩いている。中村の後に顔を見せた人間は、女のだった。見たことがある顔だった。同じクラスの女の子だ。名前は高橋だった。同じクラスでも、話したことは無かった。

「僕の彼女なんだ」中村は手短に紹介すると、僕と高橋は三秒ほど目が合った。何も話すことが無いので、そのまま僕は違う方を見た。

「二人、友達だったの?」高橋が若干の笑みを浮かべて、僕に聞いてきた。

「え、体育の時間に少し話しただけだよ」緊張気味に答えた。

「あぁ、そうなんだ」何を考えているか分からない笑顔で、また高橋は言った。

 高橋の顔は明らかに学校では可愛い方にランクされるレベルだった。大きな目の下には少しクマが出来ていて、疲れたような顔をしている。それでも、十分に可愛い。背はかなり小さい。多く見積もっても百五十センチ、というところだ。胸も、同じ年の人と比べたら大分大きい。部活は若干黒い肌からは、外で運動する部活に入っているのだろう。

 高橋は中村の隣に座った。中村は自然に高橋の腰に手を回した。彼らは何とも言わないまま、しばらく黙っていた。

「あ、ゲームとか映画とか、適当に見ていいよ」中村がそう言うので、僕はレースのゲームを取りだして、一言断って、それをゲーム機に入れた。気になっていたゲームだったので、しばらく時間を忘れてプレイした。

 三十分くらい経つと、いったんゲームをやめて彼らの方を向いた。高橋は中村のベッドで眠っていた。やはり疲れていたのだろう。その隣で、中村も一緒に横になっていた。

「あ、ゴメン」彼は僕と目が合うと慌てて起きて来た。

「いや、良いんだ。寝てていいよ」僕も変な気を使わせてしまって、かなり申し訳なかった。

「寝たから、一緒にゲームしよう」そう言って、彼は二つ目のコントローラを取りだし、ゲーム機に接続した。彼はかなり車が好きなようだ。使う車がマニアックだ。そして、彼は慣れた手つきで車を操作し、僕の車を突き放していった。中村の圧勝だ。

「車好きなの?」僕は彼に聞いてみた。

「好きだよ。早く金貯めて車買うんだ」

「金貯めなくても、君の家なら買てもらえるんじゃない?」

「いや、自分の金で買いたいんだ」

「田中も、車が好きなの?」初めて、彼は僕の名前を呼んだ。

「まぁ、カッコいい車は好きだよ。中古でRX-7とか買って乗りたいな」

「セブンは燃費悪いぞ」

「そうなんだよね。僕は維持できないかも」その後、僕はそのRX-7を選び、彼のBMWに挑んだ。パワーが違うせいもあるが、やはり勝てなかった。そして、知らないうちに、僕らは訳の分からない事でかなり話した。僕らが大声で叫んだせいで高橋が起きてしまった。

「あ、ゴメン。起きちゃったね」中村が言った。

「うん、良いの。それより、少し外に出ない?」と高橋さんが言った。

「良いよ」と中村が答えた。二人のやり取りの結果、僕らは外に出ることになった。近くのコンビニまで歩いた。ここでも、彼らは隣を歩く。身長差が十五センチくらいだろうか。ちょうどいい。それにしても、こんなにくっ付いて歩いても、彼らは窮屈な素振りを一切見せない。歩いて三分ほどの距離でも、彼らは当然のように隣り合って歩くのだ。

 コンビニに入っても、彼らは離れなかった。どちらかが強制して、という感じはまるでない。意識して、というよりも、彼らは本当に無意識に隣り合っているのだ。このような関係は、どうなのか?僕には経験が無いから分からない。しかし彼らにとっては、少なくても今は、お互いが不可欠な存在なのだろう。

 コンビニの前には同じ学校の三年生らしき人間たちが座っていた。学校のジャージを着ていた。髪を染めたり、ズボンを極端に下げて履いてティンバーランドのブーツを履いたり、自転車のサドルを上げてみたりの、田舎者感満点の不良たちである。彼らは僕たちを睨んできた。僕たちが何かしたみたいな目つきだった。彼らは他にすることが無いのだろうか、恐ろしく暇な奴らだと思った。僕らは用が済むと、中村の家に戻った。高橋さんとは、その途にも言葉を交わすことは無かった。

 僕らは中村の家に戻って来た。コーラとポテチを買ってきただけだ。それをみんなで食べる。

 その後、僕らは学校の話をした。

「田中って何が好きなの?」

「え、ゲームしたり、映画観たりするくらいかな。あぁ、サッカー見るのも好きだよ」

「そう言えば、サッカー部入ってたよね?」高橋が入って来た。

「何で辞めたの?」

「みんなの事が嫌いだったんだ。まぁ、僕も相当嫌われてたけど」

「そうなんだ。田中君、確かにあんまり良い噂聞かなかったからね」

「え、そうなんだ」僕の噂は女子にまで広まっていたようだ。学校の世界は狭く、誰かが嫌われたり、事件を起こしたという話はすぐに広まる世界だ。

「高橋さんは部活に入っているの?」

ハンドボール部に入ってるよ」

「楽しい?」

「まぁ、そこそこかな」と、高橋は答え、僕の方をじっと見た。小さいわりに、彼女は活発そうな感じだった。きっと、部活でも中心的な存在で、人間関係にも苦労してないのだろう。いわゆる「イケてる」オーラが彼女からは漂ってくるのだ。

「でも、優人も部活以外ではあんまり話さないから、お友達が出来て良かったね。優人君と仲良くしてあげてね」と彼女は言った。思いやりのある言葉だった。そして、彼の下の名は優人、である事を思い出した。下の名前で呼ぶことは、しばらくなさそうである。

 仮に、僕に恋人と呼ばれる人が出来たとして、僕はその人の友人にまで、ここまでの思いやりが出来るだろうか。きっと、僕は自分の事で精一杯で、恋人の幸せなんて考えられないだろう。僕はそれくらい小さい人間なのだ。中村はクラスでも口数の少ない男だが、頭が良くて良い趣味をした、立派な人間だ。活発な彼女には似合わないと思っていたが、彼らは良い恋人同士なのだと、今身をもって知った。

「美奈、それくらいにして。恥ずかしいだろ」そう言って、僕らはしばらく沈黙した。普段は人といる時の沈黙は大嫌いなのだが、彼らとのそれは何故か得体のしれない良さを感じだ。

 それにしても、高橋さんの目は、吸い込まれそうな魅力みたいなものがある。目の下のクマも、彼女の可愛さを際立たせている。冷たい印象だった彼女だが、ここに来て優しさに気づいた。

 午後五時。外はかなり暗くなった。凄く寒い。まだ雪は積もっていないが、昼には無かった寒さに、僕は気分を落とした。

「あ、帰ってきた」と中村は言う。彼の母親が帰ってきたようだ。白いクラウンだった。ロードスターにクラウン、もう一台は何だろうか?そんな事を考えていると、「ただいま」甲高い声がした。この家の人間として、そして中村と言う美少年の親族にふさわしい、そんな声だった。

 どしどしと階段を昇ってくる音。ドアを開けて、女の人が入って来た。グレーのスーツに丸いイヤリング、薄化粧ながらも綺麗な顔。同年代の人といれば、明らかに目立つ方だろう。

「あら、美奈ちゃん来てたのね」

美奈は軽く会釈した。「あら、初めて見る顔ね」と言われ、僕は「同じクラスの田中です」と言った。それ以外に話すことが無かった。

「男の友達なんて珍しいわね」と言って、少しの笑みを浮かべ、出て行った。

「入って来なくて良いよ」と中村は言った。彼も恥ずかしかったのだろう。

「ねぇ、優人君も田中君もだけど、何でいつも一人なの?一人って、辛くないの?」高橋さんは突然訪ねて来た。僕も中村も、一瞬目を合わせた。答えに困ったからだ。最初に口を開いたのは中村だった。

「うーん、あまり辛いとかは思わないかな。クラスの奴らとか、色んなものにうんざりしてたところだし、、、。田中、お前も同じなんじゃないか?」

「そうだね。集団行動とか、上下関係とか、行内での身分とか、そのようなものと僕は距離を置きたいんだ」僕は、あまり人に話さない本音を、彼に打ち明けた。別に一人で好きな事をして良いじゃないか、うるさい奴らの意味不明な理論なんてどうでも良いじゃないか。そんなことしか言えない。自分の考えが上手くまとまらない。しかし、はっきりしているのは、この学校での生活は下らない、という事だ。そこで誰かと関わろうなんて思わない、ただそれだけだ。

 その後、またゲームをして、テキトーに話して、良い時間になったから、僕は帰宅することにした。高橋さんはもう少し残るらしい。

「もう少しいれば?」

「いや、今日は帰るよ。また、来ても良いかな?」

「あぁ、良いよ。近いうちにまた来てね」

と言われ、僕は彼の家を後にした。まだ雪は降っていなかったが、夜になるとさらに寒い。

 帰り道、僕は高橋さんと中村について考えた。彼らの関係はどこまで進んでいるのだろうか。とても嫌いになるタイプでは無い二人は、気取ったところも無いし、交際を陰ながら応援してあげたい。

 そして、同時に高橋さんの柔らかそうな胸を想像した。同学年の人と比べて、明らかに大きいその胸を思い出さずにはいられなかったのだ。帰宅中の僕は、急に固くなる。中村は、既に彼女とは経験済みなのだろうか。あまりに下衆な考えだとは分かっていたが、彼と彼女の間にそのような行為があっても何ら不思議ではない。自分と歳が同じとは思えない中村の落ち着きト気配り、高橋さんの普段は見せない柔和な表情と目の下のクマ、成熟した体からは、僕が帰った後に何も無いことは、何故か創造出来ないのだ。いずれにせよ、彼らは良いカップルだ。

 家に帰ると、僕は真っ先に自分の部屋に入り、何を考えたのか、高橋さんを思い出しながら固くなった物を刺激した。今までに感じたことも無い感覚で、大量に放たれてしまった。それをふき取ると、今日あった出来事を思い出した。その正体は分からない。が、さっき、彼の家で感じた、何と表現されるか分からない正体不明の感覚に囚われ、動くことが出来なかった。いつもならこの時間には空腹が襲ってくるのだが、今日は食い物が喉を通る気もしなかった。母に夕食はいらないと告げ、彼の家で感じたものはいったい何だったのかを、ベッドの中でずっと考えていた。三十分もすると、すさまじい眠気と共に、すぐに寝た。起きたのは、翌日の六時半。結局、中村の家で感じた「何か?」について、答えが出ることは無かった。