ニートの平日

地方国立大卒ニートの生活記録。「え、ニートに平日も休日もないだろ....」という下らない日記です。

映画『リップヴァンウィンクル花嫁』世の中は幻想だ。

さて、最近は映画の感想を書くのが上手くなったかな、と自分では思っております。初期の頃は書きたいことが上手く脳内で変換されなくて、自分でも何を書いているのか分からなくなるとか、よくありましたから....ね。

 

ほんで、この記事で紹介するのが、『リップヴァンウィンクルの花嫁』なんですが、マイナーだし、数年前の作品だし、覚えている人も少ないかな。でも、控えめに言って、これ傑作なんですよね。劇場で観ました。

リップヴァンウィンクルの花嫁【劇場版】

リップヴァンウィンクルの花嫁【劇場版】

  • 発売日: 2016/09/02
  • メディア: Prime Video
 

 

社会学者で映画批評家宮台真司氏の映画評論書でも紹介されています。現代の幻を暴く....と。映画を観てそんなことを考える人はあまりいないかもしれないですが、何か彼らしいですね。

正義から享楽へ-映画は近代の幻を暴く-

正義から享楽へ-映画は近代の幻を暴く-

  • 作者:宮台真司
  • 発売日: 2016/12/27
  • メディア: 単行本
 

 

でも、思えば確かに、本作は「幻を暴く」映画です。社会はそもそも幻で、いい加減で、嘘で、デタラメなんですよね、と気付かされる。濃淡の違いこそあれ常にグレーな社会を上手く表した、傑作なんですね、はい。

 

良い映画とは、「グレーな社会をエンタメも交えて表現した作品なのではないか」と思います。特に本作を見ると。他にも、あまり有名ではないけど、『二重生活』とか、『永い言い訳』とか、ともに日本映画ですが、鑑賞後に「あぁ凄い」と言える映画とは、そういう作品だと思い始めました。最近ですが。

 

映画とはエンタメで、現実を忘れさせてくれるものだ、という意見も最もです。アニメとか、ヒーローモノとか、サスペンス映画とかも、基本的には分かりやすい悪を退治するものです。観た後、分かりやすい悪を始末して、あぁ面白かった、となれれば、エンタメとしては成功な訳ですよ。それはそれなんですね。多くの場合、それは面白い映画の形です。

 

しかし、「良い映画」の定義は、少し違います。これまで、「面白い」と「良い」という言葉を使い分けましたが(「傑作」という表現はこの二つの両方の意味)、「良い映画」の定義は、「世の中の実態をエンタメを含めて面白く伝えている」とでも言いましょうか。鑑賞後にただ「面白い」ではなく、「これは何か凄い。でも、何が凄いのか....」と鑑賞後に考えてもしまう......。

無意識で凄いと分かっていても、それを自分の意識の中で説明を付けるまでに時間が掛かってしまう....。鑑賞後に歩きながら、フラッとコンビニでカップ麺と安い酒を買って、家で湯を入れて缶を開けている時も、何か考えてしまう...。

良い映画とは、これだと思います。つまり、答えが出るまで時間が掛かる、あるいは出ない、いずれ「グレー」である、と。分かりやすい白と黒というのが、存在していないんですよ。んで、何回も見たくなる、なぜなら答えが分からないから。

 

では、本作の話に行きましょう。

本作は、現代的な「インターネット」や「何でも屋」とか、「ウソ」とかがテーマになっています。

主人公の七海(黒木)は、インターネットで出会った男と結婚します。しかし、その関係はどうも微妙...。本当に心底信頼しているようにも見えないし、何だか取り繕った感じがプンプンしてきます。

さらに、七海は結婚式に呼ぶ人間を、代行出席サービスで集めます。ここで何でも屋の安室(綾野)と出会います。七海は結婚をする時から、嘘で自分を装っている訳です。ここから、既に七海はグレーであります。

しかし、旦那の母親がそれに気がついてしまいます。それを面白く思わなかった母親は、別れさせ屋を雇って、七海と息子を別れさせます。そこでも、何と何でも屋の安室が登場...。安室は正体不明の男として、この作品のキーパーソンになります。彼の本名とか出身とかも明かされることはありません...。

 

彼は、正体不明の人間という存在の象徴として描かれています。人の名前とか出身って、別にいくらでも嘘は言えますからね。初対面の人に「山田太郎です」と言えば、その通りになりますし、職務質問でもない限り身分証明をすることもないですから。本来、名前とか職業とかどこに住んでいるかとかって、どうにでもなるんですよ。働く時だって、偽名を使えば、それ以上はお客さんにバレる事もないですし...。知っているのは人事の人だけ、とか普通にあるでしょうし。現に芸能人とかも芸名がありますから。大昔から、哲学者や思想家たちが人間社会の本質を明らかにしようと努めてきましたが、全員が納得する答えに辿り着いていないのは、おそらく本当は人間なんて分からないからでしょう。がだから、世の中はグレーだと...。

 

それで、まさかの離婚を経験した七海ですが、幸か不幸か、再び安室と出会います。そこで、かつて自分も利用した「代理出席」の仕事が回って来ます。ホテルで掃除の仕事をしていた、特に何もする事がない七海は、それに参加します。

 

出席者たちは式中に上手く振る舞うために、安室から指導を受けます。「バレたら大変なことになる」と。

式は順調に進み、新郎新婦ともに、代理出席の人がいるなんて、気にもしません..。世の中の正体不明さの縮図がここに現れている訳ですね....。でも、事が上手く運べばそれで良いと。本当は世の中はそうなっていますよね。誰かが苦しんだり、死んだりしても、大局的に上手く行っていれば、それは成功だと言える訳ですね。この式で、七海は真白という女と出会います。この真白という女が、実はアレで、七海と再び出会って、.....という感じで、彼女らが少し変わった生活を始めます。

 

結局、安室は本当は何者なのか明かされないし、七海が出席した結婚式のことも、そのあとどうなったのかも明かされません。フワフワ~っと、嘘が嘘のまま、エンディングを迎えます。物語が着地したのか、と言われれば微妙ですね。特に真実を求める人にとっては。とりあえず、その後も彼らが上手くやっている....と思うしか無いですね。

 

でも、本当の事なんて、誰も分からないですからね。言葉ではいくらでも言えるし、自分の身分も欺けます。人間は、本当の事なんて、分かるはずが無いんですよね。非常に哲学的ですが。

せいぜい分かるのは免許証で役所に届け出ている名前と住所くらいか。でも、たかが役所に届け出ている名前に過ぎないですが。そんなの、特に意味は成しません。安室を見ていれば、それが分かります。

 

でも、何が本当かなんて、良いんです。正体不明の安室という人間が、嘘で人をくっつけて、その人たちが、何故か束の間の幸福を得て去っていく.....。七海はラストシーンで、すごく吹っ切れた表情を見せます。結婚する時には見せなかった晴れ晴れした表情。

嘘で塗り固めた幸福なんて許せない?いえ、それはでも良いんです。正直に生きていても何が何だか分からない事は起きますし。どんな人間が、何を考えて生きているかなんて分からないんですから、どんな手段でも、上手く生きていけば良いんです。

 

誰が何を考えているか、何をしているのか、まるで分からない、モヤっとしたグレーな社会を、インターネットや嘘、何でも屋の安室という存在を使って表現。白か黒か付けないとスッキリしない人には、とても消化不良を起こすかもですね。インターネット、AIが、これから更に社会をグレーにしていくでしょうが、そこで何が人間に求められるのでしょうかね?この映画に、少しそれが表れているかも。

 

リップヴァンウィンクルの花嫁【配信限定版】

リップヴァンウィンクルの花嫁【配信限定版】

  • 発売日: 2016/03/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 

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