映画感想:「冷たい熱帯魚」 映像もストーリーもキャスト良い、サイコ映画の頂点。
監督:園子温
あらすじ
熱帯魚店を営む社本伸行は、再婚した妻と娘の三人で暮らしていたが、関係は冷めきっている。
特に娘との関係は悪く、ある日スーパーで万引きをしてしまう。
そこで知り合った、同じく熱帯魚店を経営する「村田」さんのおかげで、どうにか許して貰えた。
そして、村田は社本を気に入り、熱帯魚好き同士で交流を深めていく。
そして、村田からビジネスの話を振られ、少し話を聞く社本だったが、そのあと、事態は急変していく.......。
ザックリ感想
映像、ストーリー、キャストの演技、全てが素晴らしいサイコ映画。
特に村田のサイコっぷりが怖いけど笑えます。すごく難しい役だと思うんですけど、なぜかでんでんは、”凄く”自然に演じていますww。この辺が面白いんですよね。
そして、村田の陰に隠れがちですが、社本の気弱な感じも良かったです。途中から変わってしまうんですが、よくその辺を表現したなと。
他のグロ映画は、まずはこの映画を観てから出てきて下さい。まぁ、コレを超える作品は出てこないでしょうけどね。90点。
家族に何も言えない「知らないふり」社本。その微妙な感じを出した吹越満。
主役の社本さん。熱帯魚店の経営が微妙なせいか、思ったことをはっきり言えない性格です。
そのせいか、娘と再婚した妻との生活も上手くいっていません。
再婚の妻は、夫への愛はもはや一ミリも無いようです。
スーパーでの買い物はテキトーで、目に付いた冷凍食品をテキトーにかごに入れます。食材を買って自分で作る気などいっさいありません。
食卓に並ぶのは冷凍食品の唐揚げ、インスタントの味噌汁、パックのご飯、食事が終わったら食洗器に突っ込むだけ。
「夫や娘に、作ったご飯を食べさせたい」的な想いは一切感じません。すごくおかしいですねww。だったら別れろや!とも思うんですが。
娘はもっとひどく、食事中に電話をして、彼氏の所へ出て行ってしまいます。
そんな二人に、お父さんの社本さんは何も言えません。
「おい、ちょっとくらい自分で料理をしないか!」とか、「食事中に出て行くんじゃない!」とも言うこともなく、ただ黙って食事を続けます。
家族同士での会話も無く、彼らはただいるだけ、という感じです。
そんでその後に、娘は万引きをしてしまうのです。まさに社本さんの「知らないふり」が招いた結果だと言うべきですね。
この社本という、気弱で寡黙で、難しい役を、吹越さんはうまく演じたなぁっと。地味ですが、スゴイです。
普通の人間を演じるって、めっちゃ難しいじゃないですか.....。コレと言って特徴がないし.....。
でも、”普通に普通の人を演じる”吹越満の技量は、本物の凄さをかんじます。コレが役者ですよね。
村田が恐ろしい本性を出すシーンは爆笑モノ。
そんで、この映画で一番凄いのは、社本さんと同じ熱帯魚店を営む村田です。
「主役こっちで良かったんじゃね?」とも思います。それくらい目立っていています。この男が、社本の人生を狂わせていくのです。その姿が怖くて、なぜか笑えます。
社本の娘が万引きをした所に現れ、スーパーの店長に「許してやってよ」と言って、社本のピンチを救います。
社本が熱帯魚店をやっていると聴くと、すごく自然な感じで愛想を振りまき、彼に近づいていきます。
この辺からは、利用しようとする感じはありません。気の良いおっさんという感じです。
そのあと、村田は社本や吉田という爺さんに、1000万くらいのビジネスの話を持ち掛けます。この辺から、彼は別の顔を見せます。
知り合い数人ほどで集まって、そのビジネスの話をします。吉田さんは「1000万の熱帯魚なんて聞いたことが無い」と、村田の話を疑います。
そうすると、村田は途端に不機嫌になり、吉田さんを嫌い始めます。吉田は村田の機嫌を取ろうと、そのビジネスに乗り、村田に投資してしまいます。
「ちょっと休憩しよう」と、村田が栄養ドリンクを持ってきます。それならコーヒーじゃないの?と思いますが、彼の場合はリポDのような瓶の飲み物です。
吉田さんは、それを「美味しいねぇ」と二本も飲んでしまいます。
そして、村田から驚愕の一言が。
「俺は娘が嫁に行くまでは、どうしても捕まるわけにはいかないんだよ.....」
「えぇ、今捕まるとか何とか.....」と驚く社本と吉田さん。
村田は「アレ、そんなこと言ったっけ?」と、気にする様子もありません。「別に当然でしょ」的なノリで、自ら犯罪者である事を告白します.....。
吉田さんの様子が急変。
「大丈夫ですか?」と心配する社本に、「そいつは良いから、俺の方を見ろ」と、村田は言います。
そうです、コイツは計画的に吉田さんを殺したのです。ここから、村田のワンマンショーの始まりです。
「俺はなぁ、人がいつまで生きるか、誰がいつ死ぬか分かるんだよ!」と、村田は苦しんでいる吉田さんを心配する様子もありません。
「そいつは良いんだ、こっちを見ろ」と、社本を罵倒し始めます。僕はこのシーンだけでも何回も観ています。
良い人から急に悪い人に変わる、普通に考えたらあり得ませんが、でんでんは凄く自然に、コミカルに演じています。「普通にこういう爺さんいるよなぁ」って感じで......。コレが笑えるんですwww。
その吉田さんの死体を処理するために、彼らは山奥の古い家に向かいます。
証拠隠滅のため、「ホント良い人だったよな~」と言いながら吉田さんをバラバラに分解していきます。
「ボデーが透明になっちまったんだから、何にも分かりはしね~」
「俺は常に勝つ新太郎」
と、村田は名言を吐いて、さらに社本を罵倒していきます。罵倒、罵倒、罵倒の連続。よくこんなに人を罵倒できるな......。初めて会った時とのエライ変わりよう.....。
この後も村田は、驚くほどの奇行と暴言を見せてくれます。こんな人がいたら怖いですねぇ。あなたの周りにも要るかもしれませんよ.......。
この村田のキャラは本当に面白いし、この人を演じられるでんでんの技量もすごいですね。感心です。
そして、ボデーを透明にするってww。こんなセンスのある台詞を、聴いたことが無かったな......。
この何とも表現しづらい笑いが、この映画の上手いところです。村田のキャラと意味不明なセリフ、そして人がバラバラになるショッキングな映像、全てが素晴らしいサイコサスペンスとなっています。
ここまでで1時間です。この後、さらにショッキングな映像と、村田のキチガイぶりが爆発します。
ただグロイだけで、ストーリー性も笑いも何も無く、役者の演技もクソないグロ映画はいくらでもありますが、まずはこれを観て出直して欲しいですね。
吹越満の演技と、村田さんの笑えるところを主に書きました。
が、社本の妻がめっちゃエロイです。割愛しましたが、その辺もぜひ見て欲しいです。コレを映画館で観たかったなぁ......。
ただ、最後の20分がちょっと微妙なんですよね。引っ張り過ぎで、そこがこっと残念だったな......。良い作品なだけに。
この映画はアマゾンプライムビデオで視聴できます。